「……瞬?」

ゆっくりとその人に歩み寄る。

その人の前にくると、自分より高い位置にある顔を見上げた。懐かしい整った顔だった。

「瞬……」

私は彼の名を呼んだ。彼は私の名を呼び、私を強く抱きしめた。私も瞬の体に腕をまわした。高校の頃と同じ感覚だ。あの頃のような温もりは感じられないけど、あの頃と同じ安心感は感じられた。

「ありがとう。来てくれてよかった」

ずっと聞きたかった大好きな声に、再び涙が溢れた。瞬の胸元に顔をうずめる。

「瞬……」

「今まで、本当にありがとう。愛がいて、愛に逢えて。本当によかった」

大好きな声で並べられる自分と全く同じ想いに、彼の胸で何度も首を振った。

「大好きだよ」

少し間を置いて続けられた言葉に、涙をこれ以上こぼさぬようにと噛みしめていた唇も意味を成さなくなった。

「来てくれて、本当にありがとう」

瞬の優しい声に、幸せな瞬間の終わりを感じた。「嫌だ」と呟き、瞬の体にまわす腕に力を込めた。しかし、その感覚が薄れ始めたのを感じた。

「嫌だ、行かないで」

「大丈夫。また来年、ここで会おう」

「瞬……行かないで……」

何度も腕に力を入れ直す中、ふわりと優しい風が吹いた。たくさんの桜の花びらが空に舞う。

風の音と共に「大好きだよ」と瞬の声が聞こえると、彼を抱きしめている感覚が、彼に抱きしめられている感覚と共に消えた。自分の体を抱え込むようにして膝から崩れ落ちる。