走っているうちに、何度か涙が頬を伝った。申し訳なかった。瞬が特別な想いで渡してくれたのであろうネックレスをなくしたことが。

ひたすら走る体についていくと、やがて、いつか瞬と毎年こようと約束した丘に着いた。ここにたった1本だけある木は、たくさんの薄紅色の花を咲かせていた。懐かしい景色に、頬を伝う涙が勢いを増した。

涙を拭い、新たに頬を濡らしながら木に近づいた。手のひら全体で幹に触れる。

「……瞬」

大好きな人の名を呼ぶと、続きの言葉ではなく涙が出た。声を出そうとしても、頬を伝う涙に邪魔される。

「……ごめんね……」

ようやく伝えたかった言葉を口にすると、体の左側で木にもたれ、口元を手で覆った。

「……私、指輪……」

なくしちゃった、と時間を掛けて呟くと、自分を呼ぶ声が聞こえた。瞬に似た声だった。涙が止まり、しゃくりあげながら辺りを見渡す。

「愛」

先ほどよりもはっきりした声で、聞こえた方がわかった。そちらを見ると、白い長袖のTシャツにジーンズを履いた背の高い人がいた。