数日後の水曜日、昼までの仕事を終えて店を出た。ポニーテールを揺らす春の匂いが寂しさで胸を満たす。

少し前から、近所で桜が見頃を迎えているらしい。あの丘の桜はどうだろうと気になったが、瞬のいないあの場所に耐えられる気がしなかった。


やたら晴れた昼の帰り道を、ぼんやりと自分の影を追い、自転車と共に歩く。時々地面に落ちている桜の花びらが、よりあの場所を気にさせた。


しばらく歩いて家に着いた。ちょうどリビングから出てきたお母さんに「おかえり」と言われ、「ただいま」と返した。笑顔を作ったつもりだったが、実際どれだけ笑えていたかはわからない。

部屋にくると、バッグをベッドの前に放り、勉強机にちょこんと座る熊のぬいぐるみに目をやった。漠然と抱いた違和感は、ぬいぐるみを見ているうちに確かなものになった。

ぬいぐるみの首に、瞬のネックレスがなかったのだ。

「……ない」

震えた声で呟いた直後、瞬のことでいっぱいになった。あのネックレスは、今瞬を感じられる唯一のものなのだ。本当にどこにも瞬がいなくなったような気がした。

瞬の名を繰り返し呟きながら、枕の下や布団の中、ベッドの下に絨毯の下まで探した。それでも見つからず、私は部屋を飛び出して階段を駆け下り、玄関をも飛び出した。ほとんど無意識のうちだった。