それでも体は、自分がするべきことをわかっている。気がつけば、就職から1年以上が経ったことを知らせる黒いデニムのエプロンをして書籍を並べていた。気がついた途端、手元の書籍を落とした。

床に散らばった書籍を拾っていると、自分を呼ぶ声がした。どきりと音を立てた心臓と共にそちらを見ると、心配そうにこちらを見る藤原さんがいた。彼女と目が合うと、なぜかがっかりしたような気持ちになった。自分を呼ぶ声が瞬のものでないことはわかっているはずなのに。

「あっ……」

「ちょっと、大丈夫? 朝からなんか、いつ倒れてもおかしくなさそうな顔してたけど」

「いや……大丈夫です。すみません」

藤原さんに頭を下げて全ての書籍を拾い終えると、体が動くままに書籍を並べた。



仕事終わり、店を出て少し歩いたところの交差点を渡り、瞬の家に向かおうとするのは、彼に会えないことを受け止めきれない心と頭のせいだろう。しかし正しい帰路を覚えている体は、当たり前のように自宅へ向かった。

残業を乗り越えた重たい体は、影すら映さなくなった光のない道を進んでいく。私はぼんやりと、自動で動いているかのような黒い地面を眺めた。