夢から覚めたとき、走ったあとのように脈が速かった。少しずつ呼吸を整え、ゆっくりと体を起こしてベッドの上に座った。
鼻をすすり、鼻の下に触れると濡れていた。
「えっえっ……」
落ちるようにしてベッドから降り、大量のティッシュを鼻の下にあてがった。数秒後、ゆっくりとティッシュを離す。それが赤く染まっていることはなかった。小さい頃、朝起きたら鼻血が出ているということが時々あったのでそれかと思ったら違った。
鼻水をかんでティッシュをごみ箱に放ると、強い寂しさが心を満たした。
ここ数日間、記憶が曖昧になっている。瞬がいなくなったのは、彼から受け取った、お揃いの指輪が通ったネックレスをして木箱を抱く熊のぬいぐるみを見る度に込み上げる寂しさから、少しずつ理解してきている。
しかし瞬との最後の場面も覚えていないし、自分がその日から今日までどのように過ごしていたのかもわからない。