瞬の家には、大野家から先客がいた。少し前にきたようで、やはりこれからのことについて話していたらしい。

「ごめんね。私も、ちょっと話したいことがあって」

私が言うと、奏がこちらを見た。少しして瞬へ視線を戻す。

「やっぱり、瞬といたいなと思って……。ごめんね」

私が言うと、瞬は「俺こそごめん」と呟いた。

「本当は、まだどうする勇気もなくて……」

「ん?」

「このまま生きる勇気も、他の方を行く勇気も」

「そっか。そうだよね」

「俺、なにもできない……」

俯き、微かな声で言葉を並べた瞬が、今にも壊れてしまいそうな儚いものに見えた。それを守りたくて、私は強く瞬を抱きしめた。彼の体は、高校の頃にバイクの後ろに乗って抱きついたときとは違った細さになっていた。

「いいんだよ、いいんだよ。なにもできなくて」

視界を滲ませるものをこぼさぬようにしながら並べた言葉に、瞬からは小さく「ごめん」と返ってきた。彼の柔らかな髪を撫でる。

「いいの、なにもできなくていいの。ただいてくれるだけでいい。……なにもできなくていいから、一緒にいて」

ごめん、と震えた声が聞こえた。瞬も泣きそうなのかもしれない。いや、彼はもう泣いているかもしれない。

瞬を抱きしめる腕にさらに力が入ったとき、自分の頬を温かいものが伝った。