その後の何度かのやりとりで、今日も喫茶Cherry Blossomにて会うことになった。

店に入ると、前回奏と会ったときに私が座った席に彼がいた。目が合った奏に笑顔を見せられ、私も同じように返した。

「待った?」

前回奏が座った席に着きながら尋ねると、彼は「僕も今きたところ」と言った。

話は、2人で飲みものを注文してから始まった。


「まあ……」

奏は苦笑を挟んで言った。

「瞬くんのことなんだけどさ」

「うん……」

だよねと私も苦笑した。奏は小さく謝る。

「でもやっぱり、おかしいと思って」

「あの日も言ったけど……なんで? なにが?」

「瞬くんの決断はある程度予想できてたけど、愛ちゃんが止めなかったのが意外すぎた。だって恋人がさ」

奏はそこまで言うと、自分の言葉にストップをかけたように話を止めた。私は奏から目を逸らした。妙な沈黙の中、私たちの飲みものが運ばれてきた。店員さんが離れてから奏は話を再開した。

「……そんなんでいいの? 一緒にいられる時間が変わるんだよ? 僕だったら……」

奏の言葉を遮って大声で吐き出しそうになった気持ちを、比較的近くで聞こえた食器の割れる音と慌てた店員さんの声が留めた。

「私だって嫌だよ……」

短く吐いた息のあとに出した声は、奏に届いているのかも心配なくらいなものだった。

「私だって、もっと瞬といたいよ」

なら、と聞こえた奏の声に首を振った。

「でも、瞬が今のまま生きたいなら、私はそれを邪魔したくない」

私の言葉のあと、しばらく沈黙が流れた。「気づいてよ」と奏がそれを破る。

「そんなに瞬くんを想ってるなら、気づいてよ」

顔を上げた先には、ミルクティーの入ったカップを眺める奏がいた。

「瞬くん、まだ本当に決めたわけじゃないんだよ」

「……えっ?」

「あの日の瞬くん、いつもと違った」

「……そりゃ、大きな決断をしたわけだから」

違うよ、と奏は首を振った。

「弱かったんだよ、いろいろと。だから、まだ本当に決めたわけじゃないと思う。ていうか、決められてないんだと思う」

だから、今私が言えば変わるんだと奏は続けた。ミルクティーに手を付けた彼を真似るように、私もココアに手を付けた。