数日後の仕事終わり、ロッカー前で携帯を確認すると、1件のメールが届いていた。今日も奏からのものだった。話がしたいので会いたい、このあと時間があれば連絡がほしいとのことだった。彼が話したいこととはなんなのか、すぐにわかった。無意識に漏れたため息に、隣でエプロンを外している藤原さんが笑った。
「なに、まだ彼氏と連絡取れないの?」
「それはだいぶ前に解決しました」
「じゃあ、なに」
「なんでもないです」
「めんどくさい友達に誘われたとか?」
「まあ……そうですとも違いますとも言えない感じですね」
ふうん、と何度か頷き、藤原さんは「そういう面倒なやつからのお誘いは断るべきだよ。こっちが持たないもん」と友達モードで言った。
「そうもいかないんですよね……。内容的に」
「興味があるなら行けばいいじゃん」
「いや、そういう楽しい感じのメールじゃないんで、これ」
「ふうん」
静かに帰りの支度を再開したかと思えば、藤原さんは「あっ」と声を上げた。
「なんですか」
「指輪、またつけたんだね」
「ああ……はい。なんだかんだ言ってもお守りなんで、これ」
携帯を持つ右手の中指を見せると、藤原さんは「似合ってるよ」と言ってくれた。
「あっじゃあ、孤独のアラサー先輩はお先に失礼致しやす」
藤原さんはなにかを感じさせるゆっくりとした口調で言葉を並べ、私の肩にそっと触れて迷彩柄のショルダーバッグと共にロッカールームを出た。
ですから楽しいお誘いじゃないんですって、と彼女の背中に念を送りながら、私はこれから暇であることを知らせる内容を奏に返信した。