リビングにくると、瞬にも仕事終わりに呼んだことを詫びられた。彼にも玄関先での奏と同じように返す。

「それより、話って?」

自分が言った直後、場の空気が僅かな緊張をまとった気がした。

「僕もまだ、大切なところは聞いてないんだけど……」

奏が見ると、瞬は彼に笑顔を返した。

「これからのことを、2人に話そうかなあと」

言葉の内容と声色が合っていない瞬の声に、どきりとした。もうこんなところまできたのだと思った。頷くと同時に出した「うん」という自分の声は、若干震えていたような気がした。


「俺……このままでいいかな、なんて」

小さな子供にボールを投げるかのように軽く放たれた瞬の言葉に、私も奏もすぐには反応できなかった。

「はっ?」

しばらくの沈黙のあと、奏が声を出した。

「いやいや、なんで」

奏の強めの問い掛けに、「なんでっつうか……」と瞬は首を傾げた。

「なんか、このままがいいなあって」

「はっ……はああ。ええ?」

瞬が言った薄い理由に、奏はわかりやすく混乱した。

「でも……瞬がそうしたいならいいんじゃないかな」

自分が発した声は、少なからず感じていた悲しみが濃い複雑な感情をあまりまとっていなかった。私のその声に、奏はさらに混乱する。

「ちょっと待って、おかしいでしょ」

「なんで、なにが?」

「なにがもこれがも、どれもこれもだよ」

「だって、瞬も自分なりに考えた結果でしょ?」

奏を説得するために発した言葉のあと、瞬に確認するように彼を見た。特に返事という返事はなかったが、私は彼なりに考えて出した答えだと信じた。

「いや、絶対おかしいって。だってこれから、急速に科学が発展するかもしれないじゃん」

未だ混乱の残る奏の声に、瞬は小さく噴き出した。

「いや本人なに笑ってんの」

奏の少し怖い声に、瞬は「違う違う」と笑った。

「びっくりするくらい家族と同じ反応するからさ」

「これが瞬くんの家族と同じ気持ちなら、僕はますます最後まで願う。瞬くんの気が変わることを」

奏の力強い声と視線に、瞬は悲しみに似たなにかを含む複雑な笑みを浮かべた。