やがて私が注文したものも運ばれてきた。その頃になって、咲菜は木下 シズク原作の映画について調べ始めた。
「あっ、ほらほら。山田のナオくん主演だって。その相方みたいなのが赤月 美麗(あかつき みれい)」
「やたら豪華」
山田のナオくんは、綾美が好きだった俳優だ。咲菜が見せてくれた彼の画像で、全く瞬に似ていないと思ってしまったけど。
赤月 美麗は20代後半の美人女優で、なんとなく私の中では、男性のファンよりも女性のファンの方が多そうなイメージだ。
「あっ、そういえば。愛って山田のナオくんの本名知ってる?」
「えっ、山田 直人(やまだ なおと)じゃないの?」
咲菜は携帯の画面に視線を移し、ふふふと笑った。
「本名、クライシ ワタルっていうらしいよ。ウチも今知ったんだけどさ」
「どんな字?」
私が乗り出すと、咲菜は携帯の画面をこちらに向けた。長々と文字が並ぶ中、倉石 亘という文字があった。
「本名の方がかっこよくない?」
「確かに。でもいるんじゃない? 普通な感じの名前に憧れる人。私はもうちょっと個性ほしいけど」
「そうなのかねえ。ウチ、自分の名前にそんな真っ直ぐに向き合ったことないからさ」
「いや、向き合うっていうか……」
「いやあ、にしても映画楽しみだなあ。木下 シズクって本当にすごいよね。顔も頭もいいなんて」
木下 シズクが映っているのであろう携帯の画面を眺めてにやつく咲菜に適当に頷き、こんな身近にこんな熱狂的なファンがいたとは、と驚きながら、私は“ちいさなちょこれーとぱふぇ”に手を付けた。



