その公園に足を踏み入れるのはその日が初めてだった。男が座っている他に3つほどのブランコと、円形のうんてい、シンプルなジャングルジムくらいしかない小さな公園だ。


ブランコに座りうなだれる男の前に立ち、俺は彼の胸元を見た。彼が中学生だった場合、名前と学校名を確認するためだ。

名札に書かれた、自分の通う中学校の名と大野 奏という文字を見たとき、いじめは実際にあったのだと確信した。彼の着る学ランが、砂かなにかで広い範囲が白くなっているのも、俺にいじめの噂を信じさせた。

「……お前? 噂のオオノって」

金持ちらしいな、と言うと、大野はゆっくりと顔を上げた。鋭い目を向けてくる。

「そう怖い顔すんなよ」と苦笑すると、「僕、持ってないけど」と低く小さな声が聞こえた。

「え?」

「だから、別にお金は持ってない」

苛立ちがうかがえる声で言い放つと、大野は立ち上がり、公園を出ようとした。別にいいかと思ったが、彼が右足をかばうように歩いているのに気づき、俺はすぐに大野を追った。前に立つと、大野は深いため息をついた。

「お前右足どうした。さっきも思ったけど、制服も」

「別に。転んだだけ」

「ずいぶんとまあ派手に転んだようで?」

彼の答えを待っていると、「僕ドジだから」と返ってきた。予想の斜め上を行く返答に、俺は笑いかけた。

「お前、いじめられてんだろ?」

「別に。いじめっていうほどじゃない」

言ったな、という意味で俺が「おっ」と言うと、大野は言ってしまったとでも言うように「あっ」と声を漏らし、目を逸らした。

「失礼」と一言断り、俺は大野の向かって左側のズボンをまくった。白い肌に、無数の痣と傷があった。