奏は家を出てから2時間以上もの時間を掛けて帰ってきた。

「本当ありがとな」

いくらだったかと問うと、奏は別にいいよと言い、それよりさ、と自分の話題を持ち出した。

「玄関出た瞬間に思ったけど、危うく帰ってこられないかと思った」

びっくりするくらい寒いし、あのショッピングモール全然近くないと続けた奏に苦笑する。

「まあ、無事でよかったよ」

「こっちとしても心友からのお願いだからね。行くのも帰るのも意地だよ」

ただいろんな意味で地獄だったからねと強く付け加え、奏はバッグをソファに置いた。

そして当たり前のように冷めた白湯の入ったカップと共にキッチンへ向かい、当たり前のようにカップを温め始めた。しかし相手が奏ならこれくらいでは驚かない。カップを温める電子レンジの音を聞きながら俺は言った。

「あの頃の俺はいいやつに声掛けたな」

「僕も、声掛けてくれたのが瞬くんでよかった」

奏は続けるように、まあ瞬くんじゃなきゃこんな長い間一緒にいないけどねと笑った。

「ああそうだ、頼まれたのそれで大丈夫?」

奏に言われ、俺は初めて雑貨屋の袋の中を見た。中には今の俺が使うにはもったいないほどのものが入っていた。

「全然大丈夫。もったいないくらいだよ」

俺が言うと、奏は安心したように笑った。

「嫌だって言われたら、また ばかみたいに遠いショッピングモール行かなきゃいけないからさ」

少々恩着せがましくも優しい言葉をくれた奏が行ってきてくれたショッピングモールは、俺が高校の頃に何度か愛と行った場所だ。

決して遠くはないだろうと思ったと同時に、寒い中遠いと感じるショッピングモールへもう一度行こうとしてくれた奏の優しさを思い知った。