未だ暑い日の続く9月中旬。仕事終わり、いい加減 瞬に会いたくなり、自転車の隣で携帯を開いた。メールが1件届いており、なにも考えずに確認すると、芹沢 瞬の3文字が見えた。心臓の音が騒がしくなる。

本文は『今日 時間ある? 会いたい』というシンプルなものだった。自然と笑顔になる。

私は『今仕事終わったよ。今から行く』と特に絵文字を使うことなく返信し、携帯をしまったバッグをかごに放り、自分の家を目指して自転車をとばした。

熊のぬいぐるみが持っている、しばらくの間しまっておいた指輪を身につけるためだ。


家を挟んでの職場から瞬の家は、少し遠く感じた。急いでいたから余計かもしれない。しかし、少しも疲れはしなかった。

ひたすらとばした自転車のせいか、瞬に会えるという興奮からか、はたまた初めて自分でチャイムを鳴らすことへの緊張からか、高鳴る鼓動を感じながら芹沢家のチャイムを鳴らした。間もなく鍵が開く音が聞こえ、「はい」と瞬の声が続いた。

そっとドアを引くと、私を軽く見上げる瞬がいた。彼の右手中指は、ストーンの色が違うお揃いの指輪が飾っていた。


「瞬……」

私が呟くと、彼はかわいく笑った。

「来てくれると思わなかった」

瞬から放たれた言葉に、なぜか浮かんだ涙を堪えて「ばかじゃないの?」と言った。

「意味わかんないくらい悲しかったんだから」

瞬は「ごめん」と頷くと、私を部屋の中へ招き入れた。