昨日はあれから、昼間に見た光景が忘れられなかった。瞬が自分を見上げていたのだ。いつもはこちらが見上げていたのに、だ。
夕食中、両親に何度も体調を訊かれた。今朝、家を出る前にもお母さんに大丈夫かと言われた。全く大丈夫ではなかったが、とりあえず昨日も今朝も大丈夫だと言った。
ぼんやりとしたまま体を動かし、気がつけば昼休みになっていた。
「愛ちゃん。そういえばさっきから思ってたんだけどさ、指輪どうしたの?」
向かい側でコンビニ弁当のカツ丼を頬張った藤原さんが顔を覗き込んできた。
「ああ、外したんです」
「えっ、なんで? 日焼けの跡できてるし、結構長い間つけてたんでしょ?」
「一回、無になろうと思って」
「なにその、あの指輪が邪念みたいな感じ」
私は「いろいろあったんですよ」と言い放ち、野菜ジュースのパックにストローを挿した。藤原さんは「そっかそっか」と頷く。
野菜ジュースを飲みながら瞬のことを考えていると、3分の1ほど残っていたペットボトルの中身を飲み干した藤原さんに「今日、髪の毛のリボン青なんて珍しいね」と言われ、肩が跳ねた。
「そうですか?」と返しながら、無意識のうちに髪型を瞬に褒められたポニーテールにしていたことを心の中で自嘲した。