瞬の病気のことを勉強しながら書店員としての勉強もし、気がつけば5月も残り10日ほどになっていた。

1時間の昼休みが終わり、藤原さんと新刊を並べている。作業を始めてから数分が経った頃、くしゃみが出た。直前で斜め下辺りを向けたため、なんとか手元の書籍を汚すことは免れた。

「花粉症?」となぜか嬉しそうに尋ねてきた藤原さんに「違いますよ」と即答し、作業を再開した。藤原さんは少し離れたところで、木下 シズク(きのした しずく)というペンネームの小説家の新刊を並べている。


木下 シズクは、多彩なジャンルを書きこなす大人気作家だ。本名は中崎 龍太郎(なかざき りゅうたろう)。

甘いマスクで多くの女性を虜にしているが、最近では作品の内容の深さから、男性のファンも増えてきているらしい。

生年月日は非公開らしいが、かわいいと女性からの人気を集めているお顔から、私は30前後ではないかと思っている。


私には、彼のかっこよさやかわいさは全くわからない。私がよさをわかるのは瞬だけだ。少し前に再会して、彼をさらに好きになったことを実感している。


書籍の陳列が後半に差し掛かった頃、出入口の自動ドアが開いた。書籍を並べながらそちらを見ると、服装や身長、体型など、全体的に奏に似た男性がいた。彼はきょろきょろと辺りを見回し、やがて医学関係の本が並ぶコーナーへ向かった。

しばらくして私がレジにまわった頃、奏に似た男性は手ぶらで店を出ていった。