仕事終わり、バッグを肩に掛けた私は、帰路につかず健康に関する本が並んでいるコーナーにいた。瞬の病気に関して知識を増やそうと思った。しかし、並んでいる本を何度か辿っても、瞬の患った病気の名は見当たらなかった。

「ないか……」とため息のように呟き、夕焼けの綺麗な外に出た。深呼吸をしてから自転車のかごにバッグを放り込み、雑にスタンドを上げてまたがった。自宅を目指して重たいペダルを思い切り踏み込むと、今まで味わったことのないありがたみのようなものを感じた。


騒がしいほどの鈴の音と共に玄関の鍵を開け、勢いよくドアを引くと、扉の開いたリビングからコップを倒したような音が聞こえた。ちらりとリビングの中に目をやると、慌てた様子でティッシュを大量に取るお母さんがいた。

賑やかな人だなと思っていると、「もっと丁寧に開けてちょうだい」とお母さんの声が聞こえた。「どうもすみませんでした」とねっとりした口調で言い、自分の部屋へ直行した。


バッグから取り出した携帯と共にベッドに飛び込むと、早速ショッピングアプリを起動し、瞬の患った病気の名、本で検索をかけた。

しばらく検索結果を眺め、患者さんが書いた小説を購入した。商品の到着を翌日の18時から20時に指定する。携帯のホーム画面に戻って検索アプリを起動すると、今度は瞬の患った病気の名前だけで検索をかけた。

一番上に出てきた記事を読むと、なぜ瞬が、という思いだけが胸を満たした。