翌日、最近で最も明るい気分で出勤すると、藤原さんが「今日は元気そうだね」と声を掛けてきた。

「そんなことないですよ?」

「“そんなことないですよ”の言い方が元気そうだもん」

なにかいいことでもあったのかと訊いてきた藤原さんに、別になにもないですよと返し、昨日、瞬の家からの帰りに買った色つきのリップクリームを塗った。

「あらららら、リップクリームなんか塗っちゃって。うっきうきじゃないの」

「似合います?」

鏡で確認してから藤原さんの方を向くと、「いい感じ」と親指を立ててくれた。

「なんかお腹空きましたね」

「朝なに食べた?」

「マヨコーントースト食べてきました」

いいもん食べてきたなあ、と羨ましそうに言う藤原さんに、なにを食べてきたのか問うた。

「あたしは、昨日の夜寝る前に食べたみたらし団子の残り」

エプロンの紐を結びながら、「ひとり暮らしは寂しいよ」と苦笑する藤原さんに、同じようにエプロンの紐を結びながら「そうですね」と返すと、ポニーテールに結んだ淡い紫色のリボンを解かれた。

「なにするんですか」と言ってリボンを結び直すと、「絶賛彼氏募集中の女性に向かってひどいことを言った罰」と藤原さんは本気を感じさせる声で言った。さっさと表へ向かってしまった彼女のあとを、素直に謝って追った。