いつの間にか奏が剥いていたりんごを食べながら話をしているうちに、私は今までの瞬と違う点に気がついた。爪楊枝を皿の上のりんごに刺し、瞬を見つめた状態で動きが止まる。

「……ん、なに?」

「瞬、髪の毛黒にしたの?」

私が真面目に尋ねると、奏は「今?」と笑った。瞬は「こいつと友達になってからな」と立てかけた杖を親指で示す。

「これから先、髪いじるのも難しくなるだろうから。今のうちに色戻して、あとは切るだけでいいようにと思って。じゃないと、当分の間下がホワイトチョコの上がミルクチョコだぞ」

「あっ、じゃあ瞬、元は全部黒いの?」

「おう。高校の頃上手かったろ、あの絶妙な色」

「地なのか染めてるのかわかんなかった。前髪の一部が白いのは染めてるんだろうと思ったけど」

「だろ? やっぱ俺、賢いからさ」

瞬はかっこよさとかわいさを兼ね備えた反則の自慢気な笑みを見せつけると、いい音を鳴らしてりんごをかじった。

「愛は? 仕事どう?」

「ああ……。地味に大変な作業が多くてさ」

書店員舐めてたよと笑いながら、私は爪楊枝に刺さったひと切れのりんごを半分ほどかじった。

少し大きかったなと思いながらりんごを噛み砕く私に、瞬は「そっか」と頷いた。そんな彼の笑顔から、私は悲しさのようなものを感じた。