のんびりと自転車を漕いで5分ほどで着いたCherry Blossomに入り、出入口付近が見える席に着いた。
温かみのある照明の下、テーブルに彫られた桜の花を眺めていると、出入口の扉が開く音がした。そちらに目をやると、辺りを見回す奏がいた。やがて彼と目が合い、私は小さく右手を振った。
「いやあ。ほんと、急にごめんね」
私の向かい側の席に着くやいなや、少し息を弾ませた奏は私に謝った。私は「全然」と笑う。
私は“いちごみるく”という飲みものを、奏は“おれんじ”というオレンジジュースを頼んだ。
「ああそうだ。話ってなに?」
私が言うと、奏は私から目を逸らし、小さく頷いた。数秒後、先ほどとは違う色の彼の目と視線が重なった。
「瞬くんのことなんだけど……」
真面目な声で放たれた瞬の名前に肩が震えた。
「瞬くん……」
奏は再び瞬の名前を出すと、唇を舐めた。ちょうどその頃になって私たちの頼んだものが運ばれてきた。感じのいい店員さんの声と共に2つのグラスが置かれる。奏は店員さんに会釈すると、すぐにオレンジジュースに手を付けた。
「瞬が、なに?」
グラスをテーブルに置いた奏に話の続きを促す。
「病気なんだ」
数秒の沈黙のあとに発された短い言葉に戸惑う。体全体が冷たくなった。冷えた両手を強く握る。声も出せずにいる私に、奏は続けた。
「まだ根本的な治療も見つかっていない、ね」
「……えっ?」
「愛ちゃん、瞬くんと連絡取れてないでしょ」
小さく頷くと、「高校を卒業してすぐ、検査入院して、疑いがあると……」と奏は言った。
「……今、瞬はどうしてるの?」
「リハビリや介護に使う杖を使って、家で生活してる」
「杖……?」
私が繰り返すと、奏は小さく頷いた。
「筋力が衰えていく病気なんだ」
私は奏からを目を逸らし、俯いた。病気が見つかったから瞬と連絡が取れなかったのだとわかった。言葉では表し難いいくつもの思いが複雑に絡み合い、負の感情となって胸を満たす。
そして瞬の現在を認めたくないのか、胸を満たすものが無に近いなにかに変わった。その頃に、奏は私に「余裕が出てきたら一緒に会いに行こう」と優しく放った。



