まだカバーをつけるのに少し時間が掛かるものの、ある程度慣れてきた仕事の半日分が終わり、昼休みがやってきた。休憩室で早速携帯を開く。やはり瞬からのメールと不在着信の確認のためだ。しかし今回も、淡い期待は簡単に打ち消された。予想はできていたものの、小さくため息が漏れる。
「なあに、彼氏と喧嘩でもしたの?」
ため息を聞いた藤原さんが楽しそうに言う。
「喧嘩はしてないですよ。連絡が取れないだけです、高校卒業してから」
ぼそりと答えると、藤原さんはえっと目を見開いた。
「うそっ、愛ちゃん彼氏いんの?」
彼氏と喧嘩したのかと尋ねてきたのはどちら様ですかと思い、私は苦笑した。
「藤原さん、ほんっとにどこまでも失礼ですね。高2の頃から付き合ってる彼氏がいるんです、藤原さんと違って」
藤原さんこそ彼氏はできたんですかと問うと、彼女は「あたしに似合うパーフェクトなガイが見当たらないのよ」と人差し指で前髪を払いながら言った。
確かに藤原さんかわいいしな、と思ったと同時に、彼女が瞬のような男性が好きなのを思い出した。
「藤原さん理想が高いんですよ、きっと」
「そんなことないよ。愛ちゃんのボーイフレンド、あたしのタイプだもん」
そう言ってパックの抹茶オレを飲むと、藤原さんはあっと大声を出した。
「そうだ。前言ったじゃん、その人に会わせてって」
「言われましたけど、約束はしてないですよね。それにその人、今連絡取れないんで」
少々強めな口調で言い放つと、私はペットボトルのレモンティーで喉を潤した。
「ちょーっと待って。まさかあのボーイフレンドと付き合っちゃったの?」
私が「はい」と一言で返すと、藤原さんは口の両端を下げ、泣きそうな声で「あの頃はまともに話したこともないって言ってたのに……」と呟いた。私は藤原さんのことよりも瞬のことを考えながら、通勤前にコンビニで買った惣菜パンをかじった。



