その日も、辺りが夕焼けに染まるまで待っても瞬に会えることはなかった。
家に帰ってから日付が変わるまでは早かった。ベッドにうつ伏せになったまま携帯を開く。夜の間に受信したかもしれないメールと、不在着信の確認のためだ。しかしなんの知らせもないホーム画面にため息が漏れる。
必要最低限のものが入ったバッグと共に職場のロッカー前に着いた。エプロンを着けている途中の、藤原 美咲という名の友達であった先輩の藤原さんが声を掛けてきた。彼女は私がここに就職するきっかけになった人でもある。
「いやあ、この時期やばいね、花粉。鼻水ズルズル」
「藤原さん花粉症なんだ?」
私が言うと、藤原さんはもう10年以上のお友達よ、と笑った。
「愛ちゃんは大丈夫?」
「うん。おまけに風邪もひかないから、常に元気」
「愛ちゃんみたいな人は風邪ひかないって言うもんね」
「おっ、否定はしないですけどストレートなこと言いますね、藤原さん」
新人用の紺色のデニムエプロンを着けながら言うと、藤原さんはふははと楽しそうに笑い、「行こっか」と私の肩をぽんと叩いた。



