その後、ジョーカーは幾度となく私と奏の手元を行き来した。瞬はその様子を数回眺めて夢の中へ行ってしまった。


「さあ、そろそろ決着をつけよう。君がジョーカーを引いてくれればいいだけの話だよ、奏くん。そうしてくれれば、私は君の手元にあるスペードのキングをいただく」

「ふっふっふっ……負けろと言われて負けるばかがいると思うかい? 僕は今日、勝つためだけにこれを持ってきたのだよ?」

「君が勝ちたいというのはよくわかる。私も同じ気持ちだ。だが、頼むから早くカードを引いておくれ。私は数分ほど前から飽きてしまっているのだよ。永遠を信じてしまうほどに続く、この闘いに」

「それでは、僕が勝って終わらせようか。この、およそ1年半越しの戦を」

奏は最後にふっと笑い、またしてもジョーカーを引いた。一度深く呼吸をして、思い切り悔しそうな顔をして何度かカードをきる。

「おいおい、奏くん。終わらせてくれるのではなかったのかね」

いい加減終わらせようか、とため息のように言い、私は適当に向かって右側のカードを引いた。どうせジョーカーなのだろうと思いつつカードを確認すると、奇跡は起きた。あの日のように体が熱くなる。

「うおっしゃあ。来たぜっ、スペードのキング」

やっと終わったぜと喜んでいると、奏は「嘘でしょ」と手元のカードを確認した。

「ちょっ、もう最ー悪。嘘でしょ?」

「なんかもう、勝ったことより終わったことの方が嬉しいんだけど」

「勝ったことを喜んでよ。もう本当に悲しい。帰ったら10日くらい寝込む」

奏は唸りながらテーブルに伏せた。それとほぼ同時に瞬が目を覚ました。私と奏を一瞥し、ふっと笑みをこぼす。

「奏お前、また負けたのかよ」

「もう絶対あれだよ、白湯の温めが足りなかったからだよ」

「今日も白湯飲んできたの?」

「当たり前じゃん。『両手にカイロ、お腹にカイロ、外出前に白湯一杯』は常識だから」

初耳だけど……と私が呟くと、瞬は「で、確か帰ったら……」と奏に振った。

「『手洗い・うがい、そんなことより白湯一杯』。僕、胃酸最強説の信者だから」

「胃酸最強説も私初耳なんだけど……」

俺もだから大丈夫だと言ってくれた瞬の隣で、奏はほんと悲しい、と呟いた。