奏の誕生日から約1週間が経った、卒業まで1週間を切った土曜日。我が笠原家には今日も瞬と奏がいた。今回は私の部屋だ。3人で、文化祭のときに約束したババ抜きをやっている。私と瞬はすっかり忘れていたけど、奏が覚えていてわざわざトランプを持参してきた。


「もうね、全っ力で湊の仇討つから」

「いやいや。こちらとしても、あれだけ挑発的な態度を取ってしまったものだからね。負けるわけにはいかないよ」

まだ手元に大量のカードが残っているにもかかわらず火花を散らす私と奏に、瞬は「なんだこいつら」と笑った。

「さあ、君はどれを引く。ここで引く1枚でこれからの戦が変わってくるぞ」

謎のスイッチが入っている私の言葉に、「まだ早くね?」と瞬が突っ込む。

「こういうのは心理戦だからね。君のような素直な子には負けないよ」

瞬は、今度は「お前ら誰だよ」と笑った。

「さあ、大野くん。どれを引く?」

私が片方の口角を上げると、奏は私の目を見つめたままスペードの7を引いた。彼がふっと笑ってカードを捨てると、瞬は「ついていける気がしない」と呟いた。