「そうそう。でねでね? 前に聞いた噂なんだけど、大野くんって女子の扱いがめっちゃ上手いらしいのっ」
綾美は少し流れた沈黙をハイテンションで破ると、顔を覗き込んできた。
「えっ、なにそれ。どういう意味?」
なんだか おかしくて少し笑いながら尋ねると、綾美は細く長い指をパチンと鳴らした。
「いい質問ですねえ。あたしもその噂に関してはよくわかんないんだけど、なんかちょっとやばいらしいよ?」
「やばい?」
「うん。まあ大野くんはもちろんだけど、そんな人と仲いい芹沢くんにも気をつけた方がいいよ? なにに巻き込まれるかわかんない」
綾美は真面目な声で言うと、怖い怖い、と自転車のハンドルを握っている方の腕をさすった。
大野 奏――顔は近くで見てもかなり かわいい感じだったし、性格も悪そうではなかった。
女子にモテる要素は全部持っているはずなのに、そんな噂が流れた。ならば、あのかわいい系男子は相当やばいのだろうか。
私は少し考えたところで、まあいいかと呟いた。答えが出ずに諦めるという終わり方にはもう気づいている。
「で、芹沢くんは……あっ、部屋行ってからだね。我が栗原家へようこそっ」
そう言って綾美が左手を広げたのは、綺麗なカントリー風の家の前だった。インターホンの隣には、洒落た字で確かに『KURIHARA』と書かれている。
綾美が「ほら」と開けてくれた黒っぽいお洒落な門から、「お邪魔します……」と芝生の広がる綺麗な庭に足を踏み入れた。



