おみくじを結んで神社を出ると、帰り道にコンビニに寄った。奏が急に欲した肉まんのためだ。店内が混んでいそうだったので、私と瞬は店の前で待つことにした。

奏が消えていったドアを眺め、瞬は「本当に自由なやつだよな」と言った。

「でも、本人も言ってたようにそこが奏らしいところでもあるよね」

まあな、と瞬は笑った。

「中1から一緒にいても自由だと思う?」

「いや。俺も、自由なのが奏だと思ってるから。逆に、ここまで一緒にいるとおとなしい方が心配になる」

まあ高校に入る頃にはおとなしいときなんかなくなってたけどな、と瞬が笑い、私はそうなんだ、と苦笑した。

「ただ、金銭感覚は未だに合わない」

「え、どっちがお金あるの?」

「逆に俺だと思うか?」と瞬は少し悲しそうに言った。

「まあ、相手は果物屋の息子だからな」

さらりと放たれた言葉に、理解するのに要した数秒間の間のあとに「えっ?」と返した。

「果物屋って? 奏が?」

私が訊くと、瞬はおう、と当然のように頷いた。それどころか、「知らなかったの?」と言ってきた。

「知るわけないじゃん。むしろどのタイミングで知れと?」

「市民まつりのとき。あのときにもう知ったのかと思ってた」

「いやいや、全然知らないよ。果物屋?」

「あの日、冷やしパイン食ったろ? あれ、奏ん家の」

「……ごめん、ちょっと言ってることがわかんない」

まじか、と瞬は苦笑した。

「だから、奏は家が果物屋なのな?」

それは大丈夫かと問われ、たぶんと返す。

「で、毎年あの市民まつりで冷やしパインの屋台を出してんの」

「はあ……。で? あのとき言ってた、逃げるとかなんとかっていうのは?」

ああ、と瞬は小さく笑いをこぼした。

「あれは、屋台の手伝い。手伝いは主にお姉さんがやるんだけど、最近は奏も巻き込まれてるって感じで。それが嫌になって、逃げ出してきたって感じ」

「ふうん。じゃあ、電話での呼び出しも屋台関係?」

「おう」

「すごいね、私完全に誤解してた」

瞬は頭の上に疑問符を浮かべた。

「私、奏をホストだと思ってたの。瞬、夜のお仕事とか言うし、それもお金もらって笑ってればいい仕事みたいに言うし……なにより今日は指名されるとか言うし」

どれもこれも俺のせいじゃねえか、と瞬は笑った。そうだよと返すと、瞬はなにかに気がついたように声を出した。

「だから俺の人間関係が異常だと思ったのか」

「そうそう」

「そっか……」

瞬は納得したように頷くと、いやちょっと待てと首を振った。

「普通 高校生を雇ってくれると思うか? あと、たぶんだけどああいう仕事は笑って金を受け取るだけの仕事じゃない」

「高校生がそういう仕事はまずいと思ったけど、瞬がどうにかしてそういう仕事もできたのかと思って。いろいろ事情があって奏を紹介したのかと思ったの。友達みたいな仲の、そういう人に。向こうの人には感謝された、みたいなことも言ってたから」

よく覚えてるな、と瞬は笑った。そんな変なことばかり言われれば覚えてるよと返すと、極普通に肉まんを買ってきた奏が店から出てきた。