「ごめんね、待った?」
少し息の荒い奏に、瞬は腕時計を見て「いや、13分しか待ってねえから。大丈夫大丈夫」と言った。瞬のやつ、無駄に綺麗な顔をして異常なまでに汚れた心を持っていやがる。
「奏、今日も着込んで来たの?」
私が尋ねると、奏はもちろんと笑顔を見せた。
「暖かいインナーに、カイロを入れた腹巻き、長袖Tシャツに、長袖トレーナー、ダウン」
奏が丁寧な説明をくれると、瞬は「パワーアップしてる」と笑った。
「カイロはあと2つあって、上着の両方のポケットに入ってるの。両手用」
聞いてるだけで暑くなってくるわ、と言って瞬は空を見上げた。
「で、家を出る直前に白湯も飲んだから、家の敷地を出るまではすごい暖かかった」
暖かかった、という奏の言葉に、えっと声が漏れる。
「今は?」
「胃の中で白湯が冷水になってる」
奏が真面目に放った言葉に、私と瞬は苦笑した。
「うん、お前とりあえず体温上げようか」
瞬の声に、それがまた難しくて、と今度は奏が苦笑する。
「ああじゃあ、お賽銭しましょうか」
奏の声に瞬と2人頷き、賽銭箱の方へ向かった。
「もうね、さっさと済ませよう。寒いから」
「お前、友人待たせて白湯飲んだんだろうが」
「腹巻きもしてるんでしょお?」
「桃じゃなくて栗にするべきだったかな」
「桃の腹巻き? かわいいね。桃と栗……てことは柿もあるの?」
「あるけど、柿はあんまり暖かくないの」
「そうなんだ」
「いや待て、モチーフにした食材関係なくね?」
賑やかに話しながら、私たちは賽銭箱の前の列の最後尾に着いた。



