奏を引き戻してくると、少しの苦戦の後、私のパーカーのポケットにたまたま入っていたポケットティッシュを火種にして落ち葉に火を点けた。最初は消えてしまうかとハラハラしたけど、無事にさつまいもを灰にもぐらせることができた。ティッシュを使う前はあまりに火が点かず、数日前の雨とその後続いた曇り空のすごさを感じた。
「いやあ、まさか落ち葉で焼き芋をやるとは思わなかった。奏すごいね」
「いやいや。芋が大量にあったからだよ」
「なんか、本当にすごい。文化祭のときも、大量のフルーツ奏が用意したんだもんね」
「ああ、去年だっけ?」
よく覚えてるね、と奏は笑った。
「うち、前から果物だけは無駄にあるんだよ」
「お金あるんだね」
私は羨ましい気持ちをそのまま声に出した。奏はそんなことないよと笑う。
私なんてもう5年近く家で果物を食べていないのにと軽く頬を膨らませると、瞬が黙って灰の中のさつまいもに竹串を刺した。
「そろそろ?」
「うん、いいんじゃね?」
「1時間半って結構早いんだね。びっくり」
私は、瞬が操る灰を払っていくトングを眺めながら言った。
「俺はこの落ち葉が燃えたことに驚いたわ」
「ティッシュがあってよかったね」
ウェットじゃなくてよかったよという瞬の声と同時に、さつまいもを包んだアルミホイルが出てきた。そばに置かれた1本のアルミホイルを開くと、本当に焼き芋が出てきた。
「落ち葉でさつまいもって本当に焼けるんだね」
「初めて?」
「え、逆に奏やった?」
「保育園の頃に、親子遠足かなんかで」
「へえ。瞬は?」
「俺もたぶん、親子遠足的ななにかで」
「ふうん。じゃあ私もやったのかな?」
「やったんじゃん?」
どれだけ思い出そうとしても、10年以上も昔の記憶は少しも蘇ってはくれなかった。



