つられるように瞬と同じ方を見ると、人混みの中から突き飛ばされたような勢いで、見慣れた顔の持ち主が出てきた。少し変わった形の黒い半袖Tシャツにジーンズという出で立ちの彼は、真っ黒な美髪を少々雑に掻き揚げた。
「えっ、奏?」
私は瞬の顔を見上げた。瞬はそうだよと言うと、カップを持っていない方の手を奏に向かって上げた。奏はご主人様に呼ばれた犬のような勢いでこちらへ走ってきた。
「おつかれ。バレなかった?」
「寝たフリして逃げてきた」
合流すると、直後に世界観がわからなすぎる言葉が男子2人の間で交わされた。逃げてきた、とはどういう意味だ。ただ彼がどこから逃げてきたにしても、1つ気になることがある。
「奏、1人でこんなところにいるの?」
私が訊くと、奏は「まさか」と首を振った。
「それより瞬くん、お仕事があったよ」
「おっ、なんか欲しいもんでもあったか?」
「僕じゃないよ。愛ちゃんらしいものがあったの」
私?と自分を指さすと、奏はかわいい笑顔を見せた。
「瞬くんね、意外だけど射的がすっごい得意なの」
「へえ。本当に意外」
“意外”を少し強調して言うと、お前ら、と瞬の低い声が聞こえた。
「瞬も射的なんてかわいいものやるんだね」
「中1からの特技」
私はつい噴き出した。
「中学生で射的デビューしたの? じゃあ、小学校高学年くらいまでスーパーボールすくいとか全力でやってた?」
「やってるわけねえだろ。祭りデビューが中1なんだから」
「え、なんですって? 小学校のときとか行かなかったの? お祭り」
「誘ってくれるやつがいない、寂しい寂しい小学校生活だったわけよ」
大昔のことを語るような声で放たれた瞬の言葉に、「絶対寂しいとか思ってなかったでしょ」と笑った。
「で、中1から射的の才能を開花させた瞬くんのせいで、僕の家には大量の要らないものがあるの」
奏が迷惑そうに言った。あのな、と瞬が言う。
「で? 今回は、奏が受け取るはずの“要らないもの”を私が受け取れと?」
違うよ、と奏は困ったような笑顔で言った。
「今回は、珍しくいいものが並んでたの。普段はくだらないおもちゃみたいなのばっかりだけど」
奏はそこまで私に言うと、かき氷を食べるというより飲んでいる瞬に、だからね、と言った。
「今回はちょっと難しいかもしれないよ?」
「あのさ、俺がもう何年連続で射的やってると思ってんの。この祭りで」
今年で6年だぞ、と続いた瞬の声に、私は全ての味が混ざり決して美味しいとは言えなくなってしまったかき氷を誤嚥した。まさか中1から毎年やっているとは思っていなかった。



