しばらくの間、部屋に響く時計の音を聴いた。そうしながら、瞬に入ってもらったのは間違いだったのではないかと考えた。2人での羽毛布団の中は想像以上に暖かかった。瞬に床で寝てもらうのは申し訳ないと思ってこうしたけど、もう少しいい方法があったのではないかと思ってしまった。
「ねえ瞬」
仰向けの体制で、見えない天井を眺めて言った。
「自分の名前の由来って知ってる?」
「“瞬”って付けられた理由ってこと?」
「そう。今、なんとなく気になった」
「ああ……」
そのままだよ、と瞬は笑った。
「一瞬一瞬、大切に生きてくれますようにって。単純だろ?」
「そんなことないよ。素敵じゃん」
「愛は?」
「私も字のまま。たくさんの人に愛されるように、とか、自身は1人の人を愛せますように、みたいな」
瞬は、ふうんと頷いたあと、小さく笑った。
「すげえぴったりな名前じゃん」
「まあ……そうかな?」
「超いろんな人に愛されそうだし」
「それはわかんないけど、私自身は1人の人を愛してるし」
言ったあと数秒の沈黙が流れ、少し恥ずかしくなった。
「瞬は? 一瞬一瞬、大切に生きてる?」
「まあ、それなりに。ちょっと違うかもしれないけど、幸せではあるよ」
「そっか。あっ、奏はどんな意味を込められたんだろう?」
「どうだろうな。やたら深いか適当に近いかのどっちかだと思うけど」
「奏のご両親ってそういう感じなの?」
「俺のイメージではね」
「へえ。深い意味となると、どんな感じだと思う?」
「奏でる一文字だから……自分らしく生きてくれますように、みたいな?」
こちらの予想を上回る瞬の予想に、「えっ?」と声が出た。
「なんで奏でるの一文字で自分らしく生きる、って意味になるの?」
「なんか……“生き方”を“音”にたとえて、自分だけの音を奏でる――自分らしく生きる、みたいな」
「あー……全然理解はできてないけど、本当にそれが由来だったら、奏にぴったりだなとは思った」
「なんで?」
「なんか、すっごい自分らしく生きてそうじゃない? 奏って」
「それはつまり……あいつを自由人だと?」
「違っ……」
私は布団の中で瞬の足を蹴った。痛っ、と瞬が声を漏らす。
「瞬でしょ、そう思ってるの」
「思ってねえよ? ちょっとしか」
「思ってんじゃんっ」
ひっどおい、と言いながら、次は瞬の腕を叩いた。



