瞬と家の中に入ると、思い出したとおり誰もいなかった。お父さんは仕事のなにかで昨日からおらず、お母さんも今朝からいない。友達と旅行に行くと言っていた。

そのことを忘れて出掛ける前にリビングに話しかけてしまったことと、鍵を閉めずに出掛けてしまったことは2人が帰ってきても秘密。


瞬がいるという不思議な感じのする自分の部屋で、瞬と2人で温かいココアを飲んだ。部屋の中央に置いた正方形のテーブルが作る距離は、瞬と向かい合うには少し近すぎるような気もした。

少しだけのつもりだったけど、気がつけば夕焼けは終わり、月と星が顔を出した。少しの話し合いの結果、瞬はここで一夜を過ごすはめになった。


必要以上に賑わった夕食を終え、入浴も済ませると、服はどうするかということになった。だけど思った以上に華奢な瞬は、私の服をほぼ問題なく着やがった。今はとりあえず布団にもぐっている。私はいつものベッド、瞬は床に敷いた長座布団に毛布という形で。


「ねえ」

明かりを消してほとんどなにも見えない部屋で私は瞬に声を掛けた。「ん?」と瞬の声が返ってくる。暗闇の中、見えない瞬の方に体を向けた。

「こっち来てよ」

「いや、全く問題ないから」

このやりとりは もう何度目かわからない。

「寒いよ」

私は今夜初の言葉を発した。

「大丈夫」という瞬の声の途中で、「わたしが」とゆっくり返した。下でなにかが動く音がする。私は自分の掛けている羽毛布団を片腕で少し持ち上げた。微かに聞こえた苦笑のあと、瞬がそこに入ってきた。

「ふふっ、あったかい」

「それはよかった」