想い舞う頃〜最初で最後の恋〜


流れる時間と沈黙。

私も綾美も、芹沢くんとその後ろの大野くんも。譲ろうにも、あのどうしたらいいかわからなくなることを恐れ、なかなか譲れない。

こういうときはどうするのが正解なのだろうか、自動ドアだったら こんなことにはならなかったのにと、答えの出ない考えが頭に浮かび始めたとき、空気の読めるドアが開いてくれた。

「あっ、ありがとっ」

綾美は語尾に音符マークでも付いていそうな声で言うと、さっさと店を出て行ってしまった。

私もこんなところに残されるのは嫌で、ドアを開けておいてくれる子供を探した。綾美の声で、開けてくれたのは子供だと思ったのだ。小学校低学年くらいかと思ったが、近くに子供の姿なんてない。

「……どうぞ」

その代わりに、親切な声が聞こえた方には 芹沢くんの綺麗な顔があった。ドアを開けてくれたのは芹沢くんなのだとようやく気がつく。

「あ、ありがとう。……ございます」

最後に付けた“ございます”は正しかったのかと考えながらも、急いで店を出た。

外に出てすぐに綾美の姿を探したけど、彼女はすでにいなくなっていた。