少し長い1曲を聴き終えた頃、私は丘へ続く緩やかな坂を登りきった。桜はまだ咲いており、視界には大好きな景色が広がった。ポケットの中で音楽を止めると、イヤホンを外し、それをプレーヤーの入っているポケットに入れながら木の前へ進んだ。


しばらくの間 暖かな風に舞う桜を眺めると、私はなんとなく後ろを見た。視界に現れた人間の姿に肩が震える。驚かせてくれた人間をよく見てみると、瞬だった。彼もあの日と同じ出で立ちだ。隣には押して来たのであろうバイクがある。

「びっくりしたあ。えっ、なんでここに?」

「いや、なんとなく」

愛はと尋ねながら瞬はこちらへ寄って来た。

「私は……新学期早々 悲しいことが多発したもんだからさ」

そのストレス発散に、と隣へ来た瞬に笑った。そっか、と瞬も笑った。

「なにがあったの、そんなに」

「わかってはいたけど、瞬とも奏とも違うクラスだったじゃん」

「ああ」

瞬は少し嬉しそうに頷いた。なんで嬉しそうなのかと言いたいのを堪えて話を続けた。

「さらにね、藤井っていう女の子いるじゃん、あの人とも離されちゃったの」

「あ、じゃあ……」

「そう、1人なの」

しかもね、と付け加えた。このあとが一番重要だ。

「担任が小嶋なの。地理の」

「ああ、あの仲よしの」

「仲は最悪だよ。知ってるでしょ? いちいちケチつけてくるんだから」

目つけられたら最後だよ、と言って私は首の辺りを掻いた。

「1組でいない? 目つけられてる人」

「愛ほど仲よく話してるのはいないかな」

だから仲よくないって、と笑い、私は伸びをした。それからほんの数秒の沈黙が流れた。それを破ったのは、あの日と同じような、瞬を呼ぶ私の声だった。

「これからさ、毎年くるのはもちろん、悲しいことがあったときにもここにこない?」

「悲しいこと?」

「そう。そうしたら、今日みたいに会えると思わない?」

「じゃあ、行こうかなって思ったときは必ずこないとやばいってことになるな」

「そう……なるのかな」

私の曖昧な返答に2人で笑った。

「じゃあ今年の約束は、悲しいことがあったらここにくるっていうのと、なにかを感じたらここにくる、の2つね?」

「わかった」


私たちの約束を合図にしたように吹く春の風の中、私たちは小指を絡めた。