リビングにいるはずのお母さんに廊下から「ちょっと出掛けてくる」と告げ、瞬と出掛けた日の上着を羽織って玄関を出た。思い切り春の空気を吸い込み、伸びをする。春補給完了。


私は上着のポケットから音楽プレーヤーに繋がっているイヤホンを出し、装着した。ポケットの中のプレーヤーを操作すれば、聴き慣れたイントロが流れてきた。やがて聴こえてきた女性アーティストの声に合わせて口を動かしながら、瞬と毎年こようと約束した丘を目指して歩き出した。

今日は、あの約束を果たすために行くわけではない。高校最後の1年、始まり方があの有様だったのでストレスを発散するために行く。約束を果たすためには卒業前にでも行こうと思っている。


丘までの道は、あの日の帰りに覚えた。私がバイクの後ろに乗るのが夢だったと言ったせいか、行きは遠回りをしてくれたらしくあれだけかかったけど、実際は歩いて5分ちょっとの場所だ。