瞬の言うとおり、そこまでの道は決して長くはなかった。広がる景色を見た瞬間、私は子供のようにはしゃいだ。
辿り着いたのは、桜の木が1本だけある丘だった。それ以外は、ただ芝生が広がっている。
「すごいっ。超満開」
隣に立つ瞬を見上げると、桜に負けない綺麗な笑みを浮かべていた。
「そんなに喜んでもらえると思わなかった」
「喜ぶよ。すっごい綺麗じゃん。正直、今まで見た桜の中で一番 綺麗な気がする」
「なんか、俺も」
「ありがとね。最高の春休みになった」
2日も待った甲斐があったよ、と付け加えると、瞬は「だろ?」と自慢気に言った。
それから、どちらからともなく言葉をなくした。
「ねえ」
数分の沈黙を破ったのは私だった。
「これからさ、毎年ここにこない?」
「毎年……そんなに?」
「そんなに。本当に気に入っちゃった、ここも、ここの桜も」
「そうか。じゃあ、毎年」
「約束だよ? 毎年ね」
「ああ」
私が瞬の手に触れたのを合図に私たちは手を繋ぎ、澄んだ春の空に浮かぶ小さな花びらを眺めた。