「100円とレシートのお返しになります。ありがとうございましたー」
「どうもー」
会計を済ませて店員さんに会釈すると、綾美の姿を探して、右側の出入口の方を見た。そこに綾美の姿はなく、その近くのレジにもいなかった。
袋を持って店内を一周すると、お菓子のコーナーで綾美を見つけた。彼女はすでに会計を済ませているらしく、右手に袋を持っていた。
「ごめん。行こっか」
「うん。忘れ物はない?」
「あー、……うん。大丈夫」
会計の途中でおにぎりを忘れたことに気づいたけど、おにぎりの存在を完全に忘れていた私は惣菜パンを買ってしまった。
綾美に訊かれて買っておくか迷ったけど、もうおにぎりという気分ではなかった。
「じゃ、行こっか」
「うん」
これから綾美の家かと思うと、楽しみな気持ちと同時に、緊張に似たなにかも感じた。
「わっ」
出入口の前にきたところで、綾美が立ち止まった。
「えっ?……あっ」
足元から少し視線を上げれば、あの茶色いベルベット素材が現れた。
まさかと思い顔も上げてみれば、予想は当たりさっきの人がいた。
「芹沢くんっ……」
何回会うのさ、と思った私の前で、綾美は嬉しそうにその人の名前を呼んだ。



