自分で作ったチョコバナナトーストを食べ、買い物に行くと言うお母さんを見送り、歯を磨いて顔を洗って外に出た。暖かい春の風が頬を撫でた。

玄関の隣にある小さな花壇のようなところに、春を感じさせる水色の小さな花が咲いていた。名前は最近知った。オオイヌノフグリというらしい。


しばらくして、買い物に出掛ける前のお母さんに「あたしが帰ってくる前に出掛けるならちゃんと鍵閉めてってね」と言われたのを思い出し、家の中へ飛び込んだ。


鍵と共に外へ戻ると、敷地を出てすぐの道にバイクにまたがった背の高そうな人がいた。その人は黒いレザー調のバイクウェアと長いジーンズが最高に似合うスタイルの持ち主だ。

あのヘルメットはどんな顔を隠しているのだろうと思っていると、長身さんがヘルメットを脱いだ。見慣れた美しい顔が姿を現す。

「わっ、瞬じゃん」

うっす、と瞬は会釈した。

「えっ、あの、お迎え?」

戸惑いながら尋ねると、「そのつもり」と返ってきた。

暖かい格好をしておけというのはこういう意味か、と1人納得した。バイクでお出掛け、最高じゃないか。

「私、バイクの後ろに乗るの夢だったの。あっ、じゃあこれじゃ寒いよね?」

言いながら自分に向けた指を上から下へ動かした。

かなあ、と曖昧に頷かれ、「ちょっと待ってて」と再び家の中へ飛び込んだ。