すっかり春らしい気候が続くようになった4月の初日。3月末に始まった春休みは、あと1週間もなく終わってしまう。
あと1年で高校生活が終わってしまうという感覚がまるでない私は、ベッドに腰掛けて右耳に瞬を呼ぶコールを聞いていた。
あれから綾美とは一度も話していない。
私はあの日、初めて綾美を怖いと思った。咲菜と話しているうちに、綾美がくれる瞬や奏の情報は嘘なのではないかとは思ったものの、まさか綾美が瞬を好きで私を瞬や奏に近づかせないためについた嘘だとは少しも思わなかった。
瞬を呼んだものでは最も長いコールのあと、小さな咳が聞こえた。
『あっ、もしもし』
「ああ瞬? 私。今 大丈夫?」
『おう。俺も掛けるか迷ってたところだから』
まじか、と声が漏れた。
「瞬からなんて初めてじゃない? 電話するの待てばよかった。特に話したいこともなかったんだし」
『やめろ』
「ヘヘッ。えっ、で要件は?」
『ああ。明後日って暇?』
「明後日?」
絶妙に待たせるね、と言いながら真っ白なカレンダーに目を向けた。見事に予定がなくて苦笑が漏れる。
「暇だよ」
『よっしゃ。じゃあ、ちょっと出掛けねえ?』
「おやっ、デートってやつ?」
『まあ、かっこよく言えばそうなるのかな。昼頃、俺がそっち行くから』
「お迎え?」
言ってみながら声がにやけた。なんだかお嬢様にでもなった気分で嬉しかった。
『暖かい格好してて』
「明後日?」
『そう』
「わかっ……た。うん」
パーカーでも羽織ればいいかな、と考えていると、『じゃあ、また』という瞬の声を合図に電話は切れた。
「暖かい格好、デート……」
携帯の『通話終了』に触れたあと、呟くと同時ににやりと笑みが浮かんだ。