「ばかじゃねえの、お前」

綾美から目を逸らすように俯いて唇を噛んでいると、鼻にかかった独特な声が聞こえた。顔を上げて辺りを見回す。柱から瞬が姿を見せた。無意識に名前を呟く。

「まじでありえねえのはどっちだよ。俺、愛と逢ってなくてもお前とだけは付き合わねえよ。そこまで頭悪くない」

綾美は瞬の冷たい声と表情から逃げるように俯き、唇を噛んだ。

「お前うぜえんだよ」

瞬は呟くように言い残すと、私の手を掴んで歩き出した。慌てて隣につく。


「瞬……? なんでわかったの? あんな場所」

「藤井に訊いた」

答えてくれた瞬の声は、普段と少しも違わなかった。

「咲菜に?」

「起きたら愛がいなくて、しばらく待っても戻ってこないから」

「そうなんだ……」

「んで、藤井の『2人でなんか話してたけど綾美ちゃんに腕引かれていなくなっちゃった』っていう言葉をもとに人気のないところを当たってったら、あそこに」

「そっか。ありがとう、すっごくかっこよかった」

心から思ったことを並べると、瞬は少し照れたように笑った。さっきもかっこよかったけど、やっぱり瞬には笑っていてほしいなと思った。

「これからも、一緒にいていいよね?」

「愛が俺に飽きるまでは」

そのままお返しするよ、と心で言った。

「ねえ瞬」

「ん?」

「大好き」

何度言っても足りないその言葉に、瞬はまたかわいく笑った。