「あんたむかつくんだよっ」
誰もいない1階の廊下、綾美の叫びが響いた。びくりと体が震えるのを感じた。
「文化祭のときだってやたら仲よく話すし、修学旅行のときなんかなによ、なに2人でスキーふっ飛ばしてんのよ」
「いやあの、待って……」
待ってもらってもどうしようもないのだけど、言葉が先に出た。
「まじでありえない。1年の頃なんか、あんなに危ない人だって言ったのにこそこそ会ってたでしょ、昼休み。見てたんだから」
綾美はため息をつきながら綺麗な茶髪を掻き揚げた。
「あたし、ちょこちょこ言ったよね。芹沢くんが好きだって」
「えっ」
綾美が言ったはずの瞬を好きだという意味の言葉をまるで覚えていない自分に驚いた。今までの綾美との会話を遡っても、綾美がそんなことを言っていた記憶はない。
「言ったじゃんっ。山田のナオくんを好きなのは芹沢くんに似てるからだって」
「うそ……」
「言ったでしょうよ、文化祭のとき。結城くんをホスト役に追加したのは、芹沢くんに似てる山田のナオくんに雰囲気が似てるからだって」
「ごめん、全然聞いてなかった……」
「まじありえない。あんたが近づかなきゃあたし、もしかしたら……」
綾美の泣きそうな声が呟いた。
綾美が瞬を好きだと知っていたなら、1年の頃に近づくところからしなかった。
後悔より、中学の頃から瞬を想っていた綾美に気がつかなかった自分に腹が立った。



