だからちょっと、と綾美に1階へ連れてこられた。職員用の昇降口のような場所だ。
「どうした、なに発見したの?」
綾美に掴まれていた手首を手の中で回しながら言った。
「あんた、なに考えてんの」
綾美は先生の下駄箱に寄りかかり、腕を組んで言った。低く鋭いその声が言っている意味がわからず、私はまたもぽかんとした。綾美が苛立ったように大きなため息をつく。
「あんた、ずいぶん芹沢くんと仲いいのね」
はっとした。綾美に言わなくてはいけないことがあった。
「そう。芹沢くんね、すっごい いい人なの。全然 不良なんかじゃなくて、優しいし、頭もいいの。だから……」
言葉の途中で、「知ってるわよ」と綾美が低い声で叫んだ。
「知らないわけないじゃん。中学の頃からずっと好きなんだから」
中学の頃からずっと――返す言葉が見つからない私に、綾美はさらに続けた。
「不良だのなんだの、嘘だよ。全部嘘。あんたが芹沢くんに近づかないようにするための」
それなのになんで……と消えそうな声が聞こえた。