綾美の雰囲気が変わったのは、修学旅行の2日目からだった。あの日からなんとなく、綾美が冷たいような気がしている。なんだか、イライラしているような。

疲れているのかなと思いながら彼女を見ていると、他のクラスメイトとは普段通りに話をしていた。その姿から無理をしている様子は感じられなかったけど、私が綾美にとって疲れやイライラを隠さずにいられる人なのであれば嬉しいことだと思った。


「えー、この地域では――」

決して暖かくはない教室での小嶋の授業。涼しいというだけでも寝やすいのに、小嶋の声まで聞こえてきてしまってはもう寝ろと言われているようなものだ。私は堂々と腕を枕にして目を閉じた。小嶋のわざとらしい咳払いが聞こえる。気にせず眠りの世界へ入ろうとした。

「おい、笠原」

一気に目が覚め、勢いよく顔を上げた。

「やばっ……」

床で派手な音を鳴らす宝物を慌てて拾った。机の中に隠しておいたのだけど、なくしてはいけないと思い手前に置いておいたらこんな悲劇に襲われた。急いでペンケースの内ポケットに隠す。ふっと息をついて再び腕を枕にした。


「二度寝かよっ。ここは家かっ」

目を閉じた直後、小嶋が騒いだ。

「小嶋は毎日5度寝するんでしょ?」

「小嶋先生だよっ」

小嶋は“先生”を強調した。それに、と続ける。

「5度寝は毎日じゃない。お前と絡んだときだけだ。笠原と絡むとやけに疲れる」

私は「はあ?」と大声を上げながら顔を上げた。

「うるっさい、お互い様だわ」

私は ふんと大袈裟にそっぽを向き、再び腕を枕にして目を閉じた。ふんって言う人いるんだ、と咲菜によく似た女子の声が呟いた。