赤と白で賑わうおめでたい時期も過ぎ、カレンダーはハート型のチョコレートが描かれた2月。私はバスに揺られながら、2つの落書き越しに流れる景色を眺めていた。
今日から2泊3日の修学旅行で、このバスはあるスキー場へ向かっている。席は最高で、隣は咲菜、前は綾美、通路を挟んだ1つ後ろは瞬と奏、というものだ。
「いよいよ、本格的に寒いところ、って感じになってきたね」
咲菜と2人で描いた、消えつつある へのへのもへじの向こうに見える景色を眺めながら言った。腰のシートベルトを邪魔そうにしながら咲菜が窓を覗く。
「ほんとだあ。結構 雪積もってる」
「ねっ。スキーとか超楽しみじゃない?」
「あー……」
咲菜は自分の席にもたれた。
「ウチさ、滑るの苦手じゃん。スベるのは得意なんだけど」
一瞬 意味がわからず、少しの沈黙の後に頷くと、「ね?」と咲菜は苦笑した。自分の親友がかわいらしい見た目とは裏腹に、真夏のホラー以上に場をひんやりさせることが得意であることを思い出した。
「そう言えば中学の頃、ダダスベってたよね。極寒のオヤジギャグで」
「あら。その取っ手、とってもお洒落ね、みたいな。取っ手が付いたら、とっても便利になったんじゃない? みたいな。よく覚えてるね」
「忘れないでしょ。私、ちょっと好きだったもん。テレビで鹿が映ると……?」
「まあ、オヤジギャグを言いたくなっちゃうのは仕方ないよね」
「じゃあ突進してくるサイが映ると……?」
「ギャー、止まりなさーいっ。あっち行きなさーいっ」
そう賑やかではないバスで、私は手を叩いて笑った。
「もうほんっと好き。咲菜最高すぎ」
笑いすぎて涙が浮かんだ目で斜め後ろの瞬を見た。私たちを見て笑っている。
「面白くない? この人」
「いやわっかんない」
私が自信たっぷりに言うと、瞬は大きく首を傾げた。
「ああいう冷静な人がいるとさらに盛り上がるのよ」と咲菜は嬉しそうに笑った。