「……寒くない?」
私たちの視線が再び交わるきっかけとなったのは、芹沢くんのその言葉だった。
言われてみれば、と思った。片手を包むように冷えた両手を合わせる。
「うん……ちょっと寒いかな」
目を逸らすタイミングを逃してしまい、なにか温かいものでも買うかと尋ねようとしたとき、芹沢くんに抱きしめられた。わっ、と声が漏れる。寒さが吹き飛び、周りに聞こえてしまうのではないかというくらいに心臓が騒いだ。
「せ、芹沢くん?」
「愛」
初めて芹沢くんに名前で呼ばれた。体がさらに熱くなる。
「……好き」
たくさんの足音に消えてしまいそうな囁きが、確かに聞こえた。
「私も好きだよ。……瞬」
私も名前で呼ぶと、瞬の少し照れたような笑い声が聞こえた。
名前で呼び合った。好きって言い合った。もう、いいのかな。私たちは、恋人で。
こんなに幸せなら、いっそ時間なんて止まってしまえばいいと思った。
しばらく瞬の胸にうずめていた顔を上げると、真っ黒な夜空から真っ白な雪が降りてきた。