「元気?」
結局気になってしまった宝物を手のひらに置いて眺めていると、後ろから呟くような声が聞こえた。間抜けな声を出して振り返る。
「びっくりしたなあ。えっ、なに?」
「元気かなって。さっきから下向いてるから」
「あっ、うん。大丈夫だよ。迷惑なほど元気」
どこかごまかすような口調で言うと、「ならよかった」と芹沢くんは微笑んだ。
なんて綺麗な顔してるんだろう、と思っていると、芹沢くんの右手中指に目がいった。
「芹沢くん、それ……」
「ああ、そう。笠原からのプレゼント」
プレゼントと言われるとなんだか恥ずかしくなって、それを隠すように笑いながら顔が熱くなるのを感じた。
「すごい似合ってる。高そう」
「だろ?」と自慢気に言う芹沢くんはかわいかった。
朝からいろいろな芹沢くんに癒されていると、もう1つ芹沢くんの手元の変化に気づいた。
「……えっ、他の全部外したの?」
「そう。これが一番気に入ってるから」
「なんか、私が選んだんじゃないのに嬉しい」
「笠原が買ってくれたから気に入ってんの」
あまりにさらりと言われた嬉しい言葉に、喜ぶ前に「えっ?」と返していた。
芹沢くんは私から目を逸らすと、「あっ」と小さな声を出した。
「来た来た」
「えっ?」
「担任 担任」
「うそっ」
慌てて前のドアの方を見た。担任の姿は見えない。
「ちょっ、まだじゃん」
嘘つき、と呟きながら再び後ろを向くと、芹沢くんは「まあまあ」と笑った。
「俺 笠原に体調訊きたかっただけだし」
体調、と聞いて土曜日の帰りを思い出した。
「そうだっ、芹沢くんは大丈夫? 風邪ひいてない?」
「全然平気。ばかは風邪ひかないって言うじゃん」
「それに当てはまるの私。芹沢くん頭よすぎだから」
「まあ悪くはないかな」と芹沢くんが絶妙にむかつく言葉をくれたところで、本当に担任が入って来やがった。
今回の担任は、ナカヤマだかヤマナカという男の先生。背がそこそこ高い、黒縁の眼鏡をかけた顔はよくも悪くもない人だ。
性格はおっとりした人なので嫌いではないのだけど、名前がナカヤマなのかヤマナカなのかが未だに覚えられない。



