ショッピングモールからどれくらいの時間歩いただろうか。家の近くにくるまで、雨は少しも弱まることなく降っていた。

「ありがとう。ここが我が笠原家」

スイカ割り花火大会のときに“綺麗”という条件で落ちた我が家の庭を示しながら言った。

「へえ。なんか、笠原みたいな人が育ちそうな感じだな」

「えっ、そう?」

一応褒め言葉として受け取っておくけど……と言って見慣れた我が家を見上げた。

私みたいな人が育ちそうな家、か。至って普通な家だと言われたのだろうか。


「あ、じゃあ、俺は」

「ああ、うん。ほんとにありがとね」

気にすんなって、と芹沢くんは笑った。

「鍵、ちゃんと閉めろよ」

「うん」

芹沢くんも気をつけてね、と言おうとしたとき、気がついた。

「濡れてる……」

「えっ?」

「芹沢くん。肩、濡れてる」

自分の右肩を叩くと、芹沢くんは左肩を見た。なにもなかったかのように芹沢くんの視線が戻ってくる。

「デザイン」

明日にでも流行るぜ、と芹沢くんは笑顔で続けた。

「嘘つき」

自分がまるで濡れなかったのは傘がこちらに傾いていたからなのだと気がつくと、なんだか申し訳ない気持ちになった。

「また降ってくるとあれだから。早く入れ」

「うん。じゃあね、気をつけるんだよ?」

「はいよ」

芹沢くんと手を振り、自転車と一緒にいつもの庭に入った。

自転車を定位置に置きながら今日の出来事を振り返ると、本当に幸せな誕生日だったな、と改めて思った。