「はいっ」
会計を済ませると、店の外で待っていた芹沢くんに小さな袋の1つを差し出した。
「友達の印なんてかっこいいものじゃなくていいよ。夏休みのお礼ってことでさ」
「本当、お礼なんかされるほどの……」
「わかったわかった。いいのっ。私がお礼したかったんだから」
私は芹沢くんに笑顔を見せ、「ありがとう」と改めてお礼を言った。
「いいえ、こちらこそ」
まさか芹沢くんからお礼を言われるなんて思っていなかったので、なんでと問う前に芹沢くんを見つめた。
「こんな、指輪なんて」
「いやいや。こっちとしては史上最高の誕生日プレゼントだよ」
好きな人とお揃いの指輪なんてさ、と心の中で続けた。
「あっ、そうじゃん。今日 笠原 誕生日だ」
おめでとう、と優しい声で言ってくれると、手ぶらの芹沢くんは指輪の入った袋をズボンのポケットに入れた。私は丁寧にバッグの内ポケットに入れる。
芹沢くんはなにかを確認するように、袋を入れた方とは反対のポケットに手を入れた。
「じゃあ、俺からの誕生日プレゼントってことでなんか奢ってやるよ」
なにがいいかと問われ、2人で歩き出しながら私は小さく唸った。
「じゃあ、販売機のジュースで」
「それくらい10本は買えるぞ」
「じゃあ、前食べにきたかき氷」
「この真冬に?」
「秋だよ。冬は明日から」
絶対冬だろ、と言う芹沢くんの背中を思い切り叩いた。いーって、と大袈裟に痛がる。
「もう。じゃあねえ……パンケーキがいいっ」
「おー。女の子だな」
「女の子だよ」
本当に失礼しちゃう、と頬を膨らませると、芹沢くんは楽しそうに笑った。



