しばらくして慎が1番にあがり、次に咲菜があがった。

少し前から私と湊の戦いが行われている。相手がジョーカーを持っているのは間違いないのに、それが2枚のうちどちらなのかはまるでわからない。

「ねえ、本当にどっち?」

「言わない言わない」

湊は目を閉じ、ゆっくりと首を振った。

「もーう」

このやり取りはすでに4度目だ。


私は向かって左側のカードに指を置いた。湊の顔を凝視する。

「どうしよう、完璧なポーカーフェイス」

初の言葉を発してみても、湊の表情は一切変わらなかった。

「これはもう運っすよ。右か左か。2分の1の勝負っす」

慎が冷静に言った。確かにそうなんだけどさ、と思う。

「負けたくないじゃん」

「いや、おれも負けないっす」

薄暗い教室で、私と湊の視線を火花が繋いだ。慎と咲菜がにやにや笑っている。

「よっしゃこっちっ」

しばらく迷ったあと、私は叫びながら向かって右側のカードを引いた。カードを見る前に湊の表情の変化を確認する。彼はまだポーカーフェイスを保ったままだ。仕方なく自分でカードを確認した。体が熱くなった気がした。

「やあったっ。勝った勝ったー」

ピースサインを見せつけると、湊は頬を膨らませるように唇を噛み、手元に残った1枚のカードを眺めた。

「絶対勝てると思ってた」

湊はジョーカーをカードの山に放り、重たい前髪を掻き揚げた。

「まあまあ。あの枚数からよく減ったよ」

慎が慰めるように言う。

「だよね」

湊は自分に言い聞かせるようにうんうんと頷いた。

「ジョーカーあるって言っても多すぎない?ってずっと思ってたんだよね。誰か細工した? みたいな」

それはねえ、と慎が突っ込む。

「えっ、てか最初からジョーカー持ってたの?」

私が言うと、「ジョーカー動かない動かない」と湊は首を振った。

ずっとこの手の中、と湊が続けると、さっと現れた彼の細く綺麗な人差し指と中指の間にジョーカーが現れた。おお、と私と咲菜から小さな歓声が上がる。湊は満足気に笑った。指の間に現れたジョーカーをもカードの山に放ると、湊の顔から満足気な笑みが消えた。

「はあ。今度リベンジしていい?」

「うーん。じゃあ、あなたは大野 湊ではなく……?」

「大野 奏と申します」

奏は丁寧に頭を下げ、綺麗な笑顔を見せた。

「認めたな? よしっ、機会があればぜひ受けて立とう」

私が言い切った直後、なんだそれ、と咲菜が呟いた。