いいのか悪いのか、大沢コンビの席だけが空いていた。咲菜に連れられ、半強制的に席に着く。
「お、嬉しいお客さんだ」
完全にスイッチが入りきっている奏が笑顔で言う。笑顔忘れてないね、とこっそりチェックを入れる。
演技力がすごいのだろうけど、普段と違いすぎて戸惑う。変に似合ってしまっているから余計に。
教室も男子たちもすごいな、と思いながら教室を見回していると、咲菜がバナナ・オレで、と言った。
全然 男子ばかりでも平気じゃん、と思っていると、「笠原は?」と芹沢くんの声が聞こえた。
「ああじゃあ、いちご・オレで」
メニューに咲菜が頼んだバナナ・オレの下に書いてあったそれを注文した。
芹沢くんが見事に指を鳴らしてスタッフ的存在役の男子を呼び、小声でなにかを伝えた。スタッフ的存在役の男子は深めに頭を下げ、美しい歩き方で戻っていった。本物は全く知らないけど、ここまでやるかと少し笑いそうになってしまった。
「すごいね芹くん、カスタネットみたいに鳴る」
咲菜が楽しそうに言った。
「ミナトの指が鳴んないんで」
芹沢くんは笑顔を忘れないまま、さらりと言った。
「ミナト? 大くんのこと?」
不思議そうに言う咲菜に、「そう」と芹沢くんが頷いた。
「で、瞬くんがシン」
奏――ミナトが言った。
「漢字はりっしんべんに真実の真。僕はさんずいに奏でる」
ずいぶん凝ってるな、と思っていると、他の4人が変えてたんでね、とめんどくさそうに芹沢くん――いや慎が言った。



