そもそも山田のナオくんをよく見たのが離婚の件が初めてと言っても大袈裟じゃないからな、といろいろ考えていると、綾美はいなくなっていた。

離婚くらいであれだけ世間を騒がせた人だからどうせまたなにかに出るだろうと思い、考えるのをやめた。


教室の中では、接客中の奏が指を鳴らすように手を動かした。その直後に隣の芹沢くんが同じように手を動かす。

奏の指が鳴らなかったのだと解釈すると、1人で小さく噴き出してしまった。

視線の先の奏は何食わぬ顔で脚を組んだ。


「奏のりのりじゃん」

1人小さく呟くと、後ろから肩を叩かれた。

振り返ってみると、槙野(まきの)という客引きに回された男子がいた。彼は顔も身長も至って普通な男子だ。

「おお、なに?」

「いやさ、こんなに客呼び要るか? さっきから客呼びが多すぎて客呼び仲間に声掛けちまったりしてんだが」

槙野くんの言葉に、そうなるよね、と苦笑した。

「じゃあ、中の調理の方に回れば? 人少ないし、きっと快適だよ」

「俺、皮剥ける果物バナナとみかんしかないんだけど」

「大丈夫じゃない? バナナ・オレの注文が殺到したときに助かるよ」

私が笑い掛けると、そんなにバナナばっか頼むかよ、と槙野くんは呟いた。

「ああそう言えば。なんかニシミヤが愚痴ってたぞ?」

「ニシミヤ……ああ。え、なんて?」

「なんでこの俺様がダンボール持ってナンパしなきゃいけねえんだ、って」

西宮くんらしい愚痴に苦笑した。

「じゃあ、笠原からの伝言ってことで、ナンパじゃないし、ダンボールって二度と言わないでって言っといて」

槙野くんは「了解」と頷いたあと、「ダンボールなんだけどな」と付け加えた。

だからやめてってば。作った側としては頑張って高級感を出したんだから。なんの変哲もない、ただのダンボールに。