残った時間を全て宿題に当て、夏休みは明けた。快適な図書館での勉強は最高に眠気を誘った。隣で気持ちよさそうに眠る奏も。


10月の第一土曜日。文化祭が行われている学校は中も外も最高に盛り上がっていた。

私たち2年3組は、『フルーツ★男子』というホストクラブをイメージしたものをやることになった。

クラスのイッケイケな男子を厳選して教室に集め、彼らがお客さんである女子に100パーセントのフルーツジュースを中心とした飲み物やフルーツの盛り合わせ、簡単なマジックなどをとびっきりの笑顔で提供するといったものだ。

ホストクラブをイメージしたと言っても、国に怒られてしまうのでお酒は出さない。煙草に火を点けて差し上げることもない。


企画の名前は、『フルーツ王国』や『フルーツ王子』などが候補に上がり、言葉と言葉の間を星にするかハートにするか、そしてそれに色を付けるか付けないかまでを考えた末に決まった。


ほぼ“大沢コンビ”が主役のそれは、綾美が提案したものだった。奏は特になにも思っていないようだったけど、芹沢くんは心の底から嫌がっていた。私が必死に止めたから来てくれたけど、当日休もうかな、とすら言っていた。


2年3組、教室内はホストクラブをイメージしただけあって、落ち着きの中にゴージャスが隠れた独特な雰囲気に包まれている。

窓と黒板のカーテンは、普段の白に近い薄い黄色のものから黒いものに変えられた。壁にも黒い紙が貼られている。

教室を真っ黒に染めているカーテンや紙には、クリスマスでツリーを彩るボールやモールが飾られた。

証明は半分以上が消され、明るすぎず暗すぎずの絶妙な薄暗さを出している。これら教室のデザインも、綾美がほぼ全て考えた。


普通ならこんなに1人の意見ばかりは通らなそうだけど、綾美があまりにも本気で語って脅す勢いで共感を求めるから、誰もが頷くしかなくなり、このぶっ飛んだアイディアは実現された。


ホスト的存在役には、“大沢コンビ”の他に、東堂(とうどう)、南野(みなみの)、結城(ゆうき)、麻生(あそう)という4人の男子がキャスティングされた。

綾美は大沢コンビだけでいいと言っていたけど、さすがに男子から批判を受けてなんとかその4人が追加された。4人ともかわいい要素ゼロのクールタイプで、大沢コンビだと芹沢くんに雰囲気が近い人だ。


彼ら6人以外の男子は皆、客引きとスタッフ的存在役をやらされている。女子は基本全員お客さん。男子に興味がない人は、選ばれなかった男子たちと客引きをやることもできる。どちらもやりたくない私は、ドアの近くで教室内の様子を眺めていた。


4人で班を組んだときのような机が3つあり、黒板の前に置かれた調理用の長テーブルから少し離れたところに1つ、そこから正三角形を描くように2つ置かれている。綾美はこれを“秋の大三角形”と呼んだ。

だけど奏曰く秋の星に大三角形はないらしく、秋に見えるのは“秋の四辺形”と呼ばれるものなんだとか。


今日だけ見られる特別な星、秋の大三角形のてっぺんに座らされたのは、やる気のない芹沢くんと眠たそうに目をこする奏。


三角形の中心には、100円ショップの造花とカゴで作った花かごが、直径の狭い円形のガーデニングテーブルのようなものの上に置かれている。


「ねえ」

そばにいた綾美に声を掛ける。

「あのキャスティング、絶対綾美の好みでしょ」

私が言うと、綾美はハハハッと笑った。

「そうだよ? でもね、正直 結城くん以外は適当。なんか結城くんって山田のナオくんに雰囲気似てない?」

綾美は後半、顔だけでなく声までにやけさせて言った。そうかな、と私は首を傾げる。

「それに山田のナオくんってさ、ちょっと芹沢くんぽくない?」

「ちょっとわかんない」

そもそも山田のナオくんをいまいち覚えていない。最近はドラマにも出ていないので、少し前に離婚したというのをかろうじて覚えているくらいだ。

「あたしさ、山田のナオくん芹沢くんに似てるから好きなんだよね」

山田のナオくんどんな顔してたっけ、と考えながら、ぼんやりと聞こえた綾美の声に「へえー」と頷いた。